
インプラントを入れたはずなのに、「歯ぐきが赤く腫れてきた」「ぐらつく感じがする」などの症状が出ていませんか?
そのまま放置すると、インプラント周囲の歯ぐきや骨に炎症が起こる「インプラント周囲炎」に進行するおそれがあります。
今回は、インプラント周囲炎の初期症状から原因、治療法、そして再発を防ぐためのメンテナンスまで解説します。
■インプラント周囲炎とは
インプラント周囲炎は、インプラントのまわりの歯ぐきと骨に炎症が起こり、少しずつ骨が溶けていく病気とされています。いわゆる「インプラントの歯周病」のような状態で、粘膜だけが炎症を起こしている「インプラント周囲粘膜炎」と、骨の吸収まで進んだ「インプラント周囲炎」に分けて考えられています。
どちらも歯垢(プラーク)や細菌が大きく関わる感染性の炎症で、放置するとインプラントを支える骨が減り、歯ぐきから膿が出る、インプラントがグラグラするなどの症状を経て、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまうおそれがあるため、早めの発見と継続的なメンテナンスが大切です。
■インプラント周囲炎の症状|出血・腫れ・膿は要注意
インプラント周囲炎は、初期のうちは強い痛みを感じにくいため、見過ごされやすい病気です。特に次のようなサインがある場合は、注意が必要です。
よく見られる初期症状
初期には、炎症による軽度な変化がインプラント周囲に現れます。
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ブラッシング時に出血する
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歯ぐきが赤く腫れて熱っぽい
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歯ぐきを押すと膿がにじむ
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噛むと違和感や軽い痛みを感じる
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口臭や苦みが気になるようになる
これらの症状は「なんとなくおかしい」程度で放置されがちですが、早期の対応が重要です。
進行した場合の変化
放置すると、インプラントを支える骨にまで影響が及ぶことがあります。
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しポケットが深くなり、出血が続く
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レントゲンで骨の吸収が確認される
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インプラントが動揺し、噛みにくくなる
こうした変化が現れた場合、症状はかなり進行している可能性があります。違和感が小さいうちに、早めの受診をおすすめします。
■インプラント周囲炎の原因
インプラント周囲炎は「細菌のかたまり(プラーク)」が出発点となり、そこに全身状態や生活習慣、インプラント特有の要因が重なることで進行しやすくなります。
歯垢(プラーク)の増加
インプラントのまわりにプラークが残ると、まず「インプラント周囲粘膜炎」と呼ばれる歯ぐきだけの炎症が起こりやすくなります。この段階でそのまま放置してしまうと、炎症が深い部分へ広がり、顎の骨が少しずつ吸収される「インプラント周囲炎」に移行していくと考えられています。
インプラントは天然歯と違い、歯根を覆う歯根膜(しこんまく)がないため、一度炎症が広がると治りにくい傾向があり、セルフケア不足や定期検診の中断が大きなリスクとなりやすい点が特徴です。
全身状態や生活習慣もリスクを高める
糖尿病はインプラント周囲炎のリスク因子としてよく知られており、血管や免疫機能への影響から、治癒の遅れや炎症の長期化が起こることがあります。血糖値が安定していない状態では、骨の治癒や結合にも悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重な対応が求められます。
また、喫煙も大きなリスク因子です。タバコに含まれる成分は血流を妨げ、細菌に対する防御力を下げるとされており、歯周病と同様にインプラントにも悪影響を与えると考えられています。
ほかにも、骨粗しょう症や心疾患、ステロイド使用歴なども周囲炎の発症に影響を与える可能性があります。
清掃しにくい構造や噛み合わせの問題
インプラント周囲の粘膜や補綴物の状態も、周囲炎のリスクに大きく関係します。たとえば、補綴物(被せ物)の形が複雑で清掃しにくい形になっている場合や、健康な歯ぐきの部分が少なくブラッシングで傷つきやすい場合などは、プラークがたまりやすく炎症が起こりやすくなります。
また、歯ぎしり・食いしばりなどで過度な力がインプラントにかかると、周囲組織へのストレスが強くなり、炎症を助長することもあります。日々のケアと、定期的なメンテナンスでの確認が重要です。
■インプラント周囲炎の治療法
非外科的治療(初期のインプラント周囲炎)
インプラント周囲炎の初期段階では、まず炎症を落ち着かせるための「非外科的治療」から始めます。
専用の器具を使い、インプラント表面に付着したプラークや歯石を丁寧に除去することが基本です。必要に応じてポケット内の洗浄や抗菌薬の局所使用を行い、細菌量を減らすことで症状の改善を目指します。
また、歯間ブラシやタフトブラシを用いたセルフケア指導、喫煙・糖尿病などの全身リスク管理、咬合力のコントロール(噛みしめ・歯ぎしり)も重要です。初期のうちに適切な処置を受けることで、進行を抑えられるケースがあります。
外科的治療(進行・中等度〜重度)
非外科的治療を行っても、深いポケット・出血・膿が続く場合や、レントゲンで明らかな骨吸収が見られる場合には「外科的治療」を検討します。
歯肉を開いて炎症組織を直接確認し、汚染されたインプラント表面を目視でしっかり清掃する方法です。
必要に応じて超音波チップ・専用キュレット・エアアブレージョン・薬液洗浄などを併用し、感染源を徹底的に除去します。
骨が大きく失われている部位では、状態に応じてインプラントプラスティ(露出部の研磨)や骨形態を整える処置が行われることもあります。炎症が長く続くとインプラントの動揺が進むため、早めの治療が必要になるケースがあります。
再生療法(骨の再建を目指す治療)
骨の支えが大きく失われている場合には、再生療法を組み合わせるケースがあります。骨補填材やメンブレン(膜)を用いて骨量の回復を目指す方法で、インプラントの安定性改善につながります。
ただし、インプラント周囲炎に対する再生療法は、症例や手術方法によって予後が大きく異なる場合があり、すべてのケースで効果が得られるわけではありません。大きく骨が失われていたり、強い動揺がある場合は、インプラントの撤去を検討することもあります。
■インプラント周囲炎を防ぐためのメンテナンス
インプラント周囲炎を防ぐには、治療後の「定期メンテナンス」を続けることが大切です。炎症は早期発見ほど対処しやすいため、数ヵ月ごとのチェックを欠かさず受けるようにしましょう。
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プラークの付着や清掃状態
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出血や腫れの有無
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歯ぐきの溝の深さ
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レントゲンで骨の変化を確認
こうした項目を定期的に確認し、必要に応じてクリーニングや調整を行います。
自宅では歯ブラシだけでなく歯間ブラシやタフトブラシを併用し、清掃しやすい習慣づくりを心がけると、インプラントをより健康に保ちやすくなります。
■歯ぐきの腫れや出血が気になったら、早めに歯科医院へ相談を
インプラントは、適切なケアを続けることで長く快適に使える治療法です。
一方で、天然歯と違い炎症が進みやすい特性があるため、早めのチェックと継続的なメンテナンスが欠かせません。少しでも「腫れやすい」「磨きにくい」と気になる点があれば、そのままにせず歯科医師へ相談していただくことが大切です。
やまもと歯科・矯正歯科では、インプラント治療後のサポート体制を整え、患者さんごとに適切なメンテナンス計画を提案します。気になる症状がある方や、他院で治療したインプラントの検診を希望される方も、まずはお気軽にお問い合わせください。
